種々の雑記

    

創作

    
#当該世界
ロイの誕生日短編『再会を踏みしめて』について。今回も日は跨いだけど、内容は短め(当社比)。
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ロイは母親の命と引き換えに産まれた。しかも人の手が入っているので、母体を優先するか子供を優先するかの人間側の選択があった。
ロイが選ばれた理由は牧場主の息子・ジョン少年と馬を取り上げた叔父さんとの間の約束が優先されたから。現実的にはあまり余裕がある牧場ではないし、日常生活に使う側面もあるので大人の調教済みの馬であるという点で母親を優先する選択肢も全然あり得た。
約束と選択の果に産まれたこと、産まれることの血腥さをロイは自覚している。だから意外に現実的な所もある。コストに言及したり、ジョン少年に約束させたことだったりとか。
同時にちゃんと自分が選ばれた、と卑屈なしで自覚していて、奇跡的に乳母もいたし兄弟馬も温厚で、人間にも同種の馬にも十二分に愛されているので、自分の感情にまっすぐ。足元の血腥さをしっかり踏みしめた上で生きている。

ロイの正しさというのは、現実的な問題を無視しないし、その上で実際感じている(存在している)感情が嫌! って言わないかが重視される。納得感がかなり近い。
ただ、解釈が影響することはあっても、詭弁や事実に反する事柄の上には成り立たないので、かなり厳密だったりもする。だから総合的に割と現実主義者に寄ってはいるかも。

前半のニアとの会話について。
約束は人を捕らえるものである、というテーマが直接言及されてる。そしてラストのロイとジョン少年の約束に直結する部分。
ニアは悪魔で、普段から人と契約という約束に拘束力をプラスしたものに括りつけられているので、実感がこもっている言葉。
今回のニア、というかニアは旅の仲間達には結構親切(本人比較)。

「けいやくじゅうしの、あくまっぽいこといいますね」
「それは光栄、ロイにそう言ってもらえるなんて」

このニアの台詞、無限に味がする。れっきとした悪魔がただの馬に言う台詞。
ロイはジョン少年に自分の事はもう探すな、という要求を、別の馬を買うなり何なりしろ、という約束で通したので、味わい深い。ジョン少年と叔父さんとの約束で産まれたロイが、ジョン少年を捕らえている構図。
ロイは確かに二度と牧場に戻らないから、どこかでちゃんと別れなきゃいけないとはいえ、親友で相棒みたいな存在のロイを2年以上探していたジョン少年の気持ちを考えると気が滅入る。
探されている身であるロイ本人が約束させてくるのは、かなり惨いと個人的には思う。そういう所が好きなんですけども。
割と本当に悪魔みたいな馬、かもしれない。

最後指切った後は、ロイはジョン少年に自分がした旅の一部を話すし、あとは自分が人間っぽくなっている経緯も聞かれるのでかいつまんで答えるなどします。
とても穏やかな時間を過ごして、一応ロイは客なのでジョン少年の家にお邪魔してミルクを貰ったりもする。
そして最後は「さようなら」と言って別れる。
それから馬を探しています、という旨のチラシはすっかりなくなります。

ロイは本当に牧場に戻る気がないし、ジョン少年はそれを理解してロイと約束してしまったので、二人の間の挨拶は「お帰り」「ただいま」ではなく、「久しぶり」「さようなら」です。
ちゃんとしたお別れをしましょうね、という話でもありました。

ロイの出生やジョン少年、作り話の英雄ロブロイ周りは『赤い小馬』が元になっています。

最後に好きな地の文。しれっとロイにとっての「身近」になっているところ。
例えば直立二足歩行が人間と人間に準じた種にしかできないように、もっと身近に言えば、馬と驢馬の間の子がどれだけ頑張っても子供ができないように。
ロイのまっすぐで、同時に惨い部分を書けて良かった。
あとロイの兄弟・ロブと牧場主の息子・ジョン少年が出せて本当に満足。
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