「お前は差し出されたものを良く飲むね。紅茶、好きでもないのに」
「貴方の好きなものを一緒に飲めるこの時間は愛しているから」
「……明け透けな事、言って。跡継ぎ争い中なのに。お前は一番父さんに気に入られているんだから、毒でも入っていたらどうするの」
「どうでも良いと思う」
また一口呷って、ソーサーにカップを置くと、水面は縁を掠めて、宙を舞っていた僅かな塵を巻き込みながら揺らめいた。
「おれが何で死んでもどうでも良い事だろう。死には変わりがない」
「では、もし仮に俺が盛っていたら?」
「勝手にすれば良い」
「……お前は何時もそれだね。自己保存も何もない」
「誰が何をしようと勝手だろう」
それだけの事だ、と紅い水面に声を落とす。
ハチの誕生日短編『21gと禁忌』について。いつもの解説的なもの。
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短編で言及する通り、ハチには永久機関があります。この世界でもエネルギー保存則とエントロピー増大の法則で否定されているんですが、エーテルの性質を利用して実現できてしまいました。第二種永久機関の方、ここでの永久機関の仕組みは緩めですが、以下の設定があります。
まずこの世界を構成する物(最小単位)を整理すると原子とエーテルの2つです。
分子は我々の世界と同じようなやつで、エーテルは主に魔術でエネルギーに変換されたり媒介したりするやつ。で、永久機関本体はエーテル単体で出来ています。
エーテルの現象の情報やパターンを保持する性質と、パターン保持しても勝手に霧散するのが正な性質を利用しています。
具体的な手順は以下。
①マクスウェルの悪魔みたいな早い分子を通す、遅い分子ははじくパターンを定着させる。
②パターンの判断完了時に情報を消す。このとき原子的な世界観ではエネルギーを消費する必要がある、つまりコストが発生する。しかし永久機関はエーテルで作られており、エーテルは勝手に霧散していく性質があるため、それを利用すると情報消去にかかるコストを使わないで済む。
③ピストンとか発電機につなぐ機械が回って、発電機を永遠に回し続ける。
エーテルって凄い。
この世界のエーテルについて証明されていること/証明されなかったこと。
魔術師やエーテルに適合する生物がイメージする内容を元に、特定の現象やエネルギーに変換する性質は証明されましたが、その情報保持やパターンの保持は否定されています。
要は原子的なものとの結合がないと(例えば、エーテルを変換した炎は現実世界の可燃物やら酸素やらを消費しないとすぐ消えるように)現象が維持できない、みたいなイメージ。そもそも勝手に霧散する性質とパターンの保持って直観的に矛盾する気がするし。
でも実際は情報やパターンを定着させる処理を通すとエーテルはパターン保持ができます。で、その定着処理が魔術ではイメージの維持にあたるんですけど、魔術が使える人は大概無意識でやっているし、すぐ現実のものを利用する方向に意識が行く(イメージで頭のリソース持って行かれるのは実用的でない)ので、情報保持の性質が埋もれちゃった感じです。
工程を分解してイメージの維持に着目したとて、じゃあ実験装置で「イメージの維持」をどうやって再現するの?問題もある。
開発者は物理的条件でその条件を見つけたので、とんでもない天才です。研究倫理というものが全くないのが大問題なんですけど。そんなんだから学殖の国から追放されるんだよね。
永久機関の設定は以上。
物理のこと、よく知らないし勘でやっているので穴がある気がします。ゆるゆるだけど、ご容赦ください。
ハチは内臓が殆どないですが、普通に食事はするし、睡眠不要だけど普通に沢山眠る。不思議なことに空腹を感じるし、あくびもする。本人はそれを生物としての名残としています。
客観的に見ると、生物というには人工的過ぎて不完全で、実際永久機関がないと生きていけない。
ハチはそれを受容しています。受容した上で今のハチは、冷笑交じりですが真剣に人間寄りの人外と定義しています。
ここ、背景に昔出会った少女がいるんですけど、これは昔のハチを書いた時に語ります。語らせてください。
ラストでハチが冷笑しているものってエーテル依存の人工物である自分でもあるし、その上で生き物をやっている自分でもあります。勿論開発者に向けたものでもあるんですが。あとはやっぱり少しは、昔出会った少女にも向かっている。ここ、CPです。ハチの片思い。←どうしたの?
今のハチって秩序や禁忌にかなり真面目で、自分が禁忌そのものである事を受け止めた結果、全方位に冷笑を向けている所がある。自分が冷笑の対象物で、じゃあそれを肯定する人間とかも考え直した方が良いんじゃない?みたいな感じ。開発者はがっつり禁忌の当事者なので勢いが強いけど、今のハチなら当事者でないなら優しめの冷笑。
ハチってクローンとキメラ(遺伝子改造)もテーマにあるんですよ。ここに関する短編も書きたいな。
あと今回の短編でニアの事も結構書けて満足しています。
ニアってまだ魔術の仕組みが神秘のベールからチラ見えするぐらいで、エーテルが魔素と呼ばれていて、魔術は科学とは無縁ですよ多分って顔をしていた時代のひとです。この時代はぎりぎり神秘が生きていました。
ハチとはかなり遠い存在(人工物⇔神秘の対比)なんですけど、短編記述の通り、ニアはニアで悪魔を「やっている」んですね~。
二人の根っこの共通点がかなり似通っているからこその、ドライな親友なんだろうな~と思います。
ニアハチは、良い。CPではない(親友の域を出ない)のでハチニアと呼んでも良い。なんとなく響きが良いのでニアハチと呼びがち。